すーぅ。 しゅるしゅる。 ふわり。

そんな風に形容されるような気がした。
煙草の煙が、現れて、昇って、消えていく。

ふーぅ。 くるくる。 ふわり。

吐き出す煙は、こんな感じだ。
吐き出されて、渦巻いて、消えていく。

「―――何見てんだ」
あたしが煙草をずっと見つめていたから、怪訝な目で見られた。
「煙草。より正確を記すなら煙草の煙。かっこよく言うと紫煙」
「…あーそうかよ。ご丁寧な説明ありがとさん」
面倒くさそうに彼は言って、また煙をふーぅ、と吐き出す。
…呆れられたかな。
今の仕草が格好良かったからいいや。


ねえ、こんな事言ったら笑われるかも知れないけどさ。
あたし、副流煙が嫌いなの。
何でかわかる?
貴方を通っていないから。
だから主流煙は好きなの。
貴方が吐き出したモノだから。

ねえわかりますか?貴方に触れたもの貴方が触れたもの全部愛しい。
何であろうと、それは清められたような気さえする。
ねえ、だからその指でその腕でその身体でその唇で、触れて下さい。
そうすれば、私も私が少しは愛しくなるかも知れないから。

…その低い声が聞きたい。眠そうな視線をこっちに向けてほしい。
「ねえ知ってる?煙草ってさ、「相思ひ草」とも云うんだって」
「それで?」
「ロマンチックじゃない?相思う、草なんて」
「…そんだけか」
「そんだけよ」
それだけだよ。
彼は仕方ない奴、という顔をすると、また煙草を咥えて、ふーぅ、と煙を吐き出した。
吐いた煙が、しゅるりとあたしの指に絡む。

嫌な臭いのする毒の煙が、愛しい。
温かささえも伝わってくるみたいで、もっと絡めたくて指を動かしたら、隙間から逃げるように霧散した。当然だ。

いつもそう。ずっとそう。
愛しくて、触れたくて。少し求めると、逃げて行っちゃう。
嫌われてる訳じゃない。
でも、好かれてる訳でもない。
いつもそう。
みんなそう。

「…ねえ」
嗚呼せめて、せめて貴方だけは、
「何だよ?」
お願い、逃げないで、消えないで、触れて下さい、触れさせて下さい。
「さわってもいい?」
少しだけ自分が愛しくなるように、貴方が触れたものを愛しく思っていられるように、もう一度涙を流せるように、
愛してくれなくていい好きじゃなくていい、嫌いでいい拒絶してもいい。
嘘。本当は愛してほしい。けどもういっそそんなのどうだっていいや、
ねえだから、ほんの少しでいい、
貴方の温もりを、あたしに下さい。

「…勝手にしろ」
そう言って、そっけなく。

――――――。
ああ、ねえ、もうひとつ我儘を言ってもいいですか、
ねえ、ねえ、それはとっくにそうなのかもしれないけれど。
「貴方」を愛してもいいですか?

そっと触れた頬は温かくて
求めて指を動かしても温もりはずっとそこにあった。

「馬ー鹿」
そう言って貴方は、あたしの頭を、撫でる。
手のひらで触れて、優しく。


ねえ、知らなくていい気付かなくていい無視してていい、
愛さなくていい好きでなくていい嫌いでいい拒絶していい、
ねえだから、あたしの心の中だけでそっと、紫煙のように消え去らせるから、
今だけは、ねえお願い想わせて、

あなたが、すきです。